暗い檻に閉じ込められる。
手足を鎖で縛りつけられて、耳元で囁かれる。



「逃げようなんて、思うたらアカンよ・・・・



これはどんな悪夢なんだ。












                               
Sweet frenzy  
                          甘い狂乱














「どういう、つもりだ!市丸!!」


ガシャリと鎖の音が頭を劈く。

冷たい床の感触が堪らなく不快で、怖い。



「どういうつもり?・・・解かってんのとちゃうの?」

「解かるか!!」


言ったその瞬間、市丸が笑んだ。深く、楽しそうに。
直感する。


マズイ、と。


「・・・あぁ、そら仕置きが必要やなあ」



一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

目の前に広がった赤に呆然として、そしてやっとそれが自分の血だと気付く。


「・・・・・っあ・・・!!」

「だーいじょうぶ。まだ浅い」



紅く染まった刀身を無造作にぶら下げて、市丸が笑う。愉快そうに微笑む。
そして告げた。



「誰にも捕まったらアカンて、言うたよな?」

「何、・・・?」


「あの隊長サンとは、どういう関係なん?」


「―――!!」


あの隊長、というのが誰を指すのかは言われなくとも解かった。
一瞬で体中の血が凍ったように、体が動かなくなる。

小さな窓がたった一つだけあるこの空間で、明かりは極端に乏しくて。
少しでも距離をとれば市丸の表情が見えない。

でも、見えなくても判る。

市丸は、笑っている。


「・・・・あ、アイツに、何かしやがったら・・・殺してやる・・・・!!」


「・・・ちゃうやろ、躾がなってへんわ」


ゆらりと市丸の持つ剣が揺らいだ、そう、思った次の瞬間に。


俺の太腿を薙いだ。


「!!」

「人に頼む時は、頭下げるンが常識や。そない簡単な事も教えてくれへんの、あのヒトは。

 可哀想になァ、そのせいでこんな傷つけてもうて」


必要以上に過保護なんやな。ゴシューショーサマ。



至近距離で市丸が微笑んだ。口を吊り上げて、満面で。
背中に寒気が走る。殺されるとか、そんな恐怖じゃなく、これは。


本能的な、畏怖だ。




「・・・・どうしたいんだ。何を、望んでる」


焼けるように疼く傷口に舌打ちして顔を上げる。



「ボクは自由なが好きやったんよ。飛び回って、誰にも捕まらないその様が見てて気持ち良かったわ。

 けどなあ、思い通りいかへん玩具は捨てるか遊び方変えるかのどっちかやろ?」


その言葉にカアッと頭が熱くなった。


「俺は玩具じゃねえッ!!」


「ボクの愛し方や、文句言いなや」


「冗談じゃねえよ!!何が愛し方だ、テメエこそ躾されなおされてこい!!」


「大きな声、出したらアカンよ。自分の立場ってモンをよおく考えり」


再び、今度は二の腕に痛みが走る。


血が流れすぎて思考がグラつく。



何だって言うんだ。
何なんだよ、これは。



冗談じゃない。



「・・・・上等だ、好きにしろよ。だけどな」



眩む視界をなんとか広げて市丸を睨みつける。

笑っている。



殺してやりたい。



「俺は、俺の全ては、全部アイツにやったんだ。何も残してねえ。テメエなんぞに渡すモンはねえよ」



ザマアミロ。


そう言ってやったら、市丸は何故か深く笑った。

嫌な予感が脳内を占める。
唇が震えて上手く動かない。



「ああ、せやから奪い取ってきたわ。」


「・・・・なん、だと・・・?」



「悲劇の主人公に浸るの大好きやんなあ、ジブン。土産や」



そして市丸が何かを俺に掲げて見せた。それは。



アイツの、斬魄刀。



「・・・・っ、嘘だ・・・・!!」


死神が、自分の斬魄刀を誰かに渡すなんて真似はしない。

つまりこの状況が意味するのは。



「心配せんでも、すぐ楽にしたったで?」


「殺してやる!!」



喉の奥から叫んだ。

体中に力を入れて鎖を引く。肌に喰い込み、擦れて血が滲むけれど痛みは無かった。


「俺がお前を殺す!!覚えてろ市丸、絶対だ!!」


「ほな今はボクの言うこと聴かな、先に死ぬことになるで?」


「・・・・っ!!」


「ああ、痛みに慣れてきてんやなあ。声、出してくれへんの?」




俺の肩から流れる血を眺めて市丸は言い放つ。
傷口に指を這わせ、笑顔を崩さないまま。


「ちゃんと最後は自由にしたるから、その時にボクも殺したらええよ。それまでイイ子にし。」


「・・・・頭、おかしいんじゃねえのかテメエ・・・!!人間らしい死に方をできると思うなよ!!」」


怒鳴りつけた瞬間、傷口に爪を捻じ込まれる。血が大きく溢れるのが分かった。

下唇を噛んで堪える。市丸が望むように声を出すのは御免だ。





閉じ込めて、鎖で繋いで、切りつけて。


玩具だと言い放って。



これがコイツの愛し方だって?





笑わせんな。






「テメエは今までもこの先もずっと独りだろ。ザマーみやがれ・・・!!」





「そうやなあ。」


くつりと、今までとは違う笑みを零して。






「だからボクは狂ってるんよ」




静かに告げた市丸の姿を見て、俺の意識は暗転した。












夢ならいい。

目が覚めて、どういう悪夢だと嘆くくらいなら。
ただどんなにそう願ったところで。




「おはようさん。・・・・今日も外はエエ天気やで?」








現実は途方も無く残酷だと思い知るだけだけれど。















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・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・ごめんなさい。
市丸相手・・・・って、どうなんでしょうか。いいんでしょうか。誉的イレギュラーなんですが。
とにかくこう暗い話なら彼だ!と思い、かつ彼なら拉致監禁暴力はオプションでつくだろう!と。
「アイツ」が誰かはお好みでお願いします。紫苑さん、こんな駄文で、も、申し訳ありません!
誉はダッシュで逃げます!!リクありがとうございました!!