「、今日はこれから暇なんだろ?」
「大将。はこれから俺とデートだから」
睨み合い、火花を散らせるエドとハボック。
それをチラリと視線を寄越し眺めては読んでいた本を閉じる。
「どっちも却下だ。・・・・お前ら用が無いなら帰れ」
場所は宿舎。の部屋。
朝早くに押しかけてきた来客二人をどうしたものかとはウンザリする。
今日はいい天気だな、とは窓の外を眺めて思う。
そしてふと思い出したのは、食えない狐上司の顔だった。
きっと、多分、いや確実に。
こんなイイ天気だってのにヤツは溜めに溜めた仕事に追われ執務室に軟禁状態だろう。
はそう思って、舌打ちをした。
ちゃんと仕事しないからだ馬鹿、などと呟く。手抜きは駄目だろうとも。
本をテーブルに置き立ち上がる。
「?」
エドが掛けた声に視線を返して、そのまま口元で弧を描く。
朝陽が反射する。幻想的な光景に二人は言葉を失った。
口の悪さが際立って忘れがちだが、こういう瞬間にはのその姿の美しさを思い知る。
無条件で人の心を捉えるような明媚な相貌。
心奪われないなら、それは何かが足りないに違いない。人としての何かが。
エドとハボックは同調してそう考えた。
実際はそうではないし、恋は盲目のいい例だろう。
自覚はしているらしく二人は顔を見合わせて頭を掻いた。
まったく恋愛感情というのは厄介なものだ。
「今日は用事がある。またな」
エドとハボックは渋々、頬を仄かに赤く染めたままの部屋を後にした。
胡
蝶
の夢
執務室に強制缶詰なロイは、この日何度目かも分からない溜め息を零した。
頬杖をつき、万年筆を手放して伸びをする。
窓から差し込む暖かい日差しがなんとも恨めしい。
本当なら休日であったはずがこうして時間外労働をしている自分に、ロイは憐れみを感じた。
手元の書類は総じて気分の悪くなるような内容ばかり。
政治、軍事共に上層に踏ん反り返る連中が保身の為にといざこざを繰り返し
結局その尻拭いを回される。
いつか必ずその場所から引き摺り下ろしてやる、とロイはいつも思う。
上に立つ者は、全てを支配するその代償として持たざる者を護るべきだ。
それはロイの持論だった。
ロイとてかなりのエリートであり、降ってくる仕事を部下に押し付けるのは簡単だがそれをしない。
故に、受け皿になって仕事は積もるのだ。
器用な人間がまっとうに生きようとすると、稀にこうなる。
「・・・・・いい天気だというのに・・・・」
はあー。
囀る小鳥の声にロイは机に突っ伏した。
利き手は使い過ぎか震えている。腱鞘炎一歩手前。
癒しが欲しいと呟く。
それは例えば気の利く女性だったり、美しい女性だったり、叡智ある女性だったり。
そこまで考えてロイは、ああ、違うな、と頬を緩ませた。
心の底で待つのは。
「よお、大変そうだな?ロイ」
乱暴に開け放たれた扉の向こうから現れた姿にロイは姿勢を正した。
そうそう君だ、と微笑む。
「手伝いに来てくれたのかね?」
「冗談。俺は甘やかさない性質だ」
は冷たく言うとロイを無視してソファーにドカリと座った。
会いに来た時点で甘やかしているという事に気付いてないのか?ロイは首を傾げる。
なんにしろ一瞬で部屋の空気が浮き立つものに変わった。
さて、と気合を入れなおしロイは書類に向かう。
折角会いに来てくれたのだから、さっさと仕事を終わらせて優雅な午後のティータイムを送ろうじゃないか。
利き手をブンブン振って万年筆を握る。
痺れる痛みは無かった。
人間の体は脳に支配されていて、脳は心に支配されていて、つまりはなんとも都合よく連鎖して。
ロイは愛の力だと思った。
愛さえあれば大抵の事はできてしまうものだ。
積み上げられた書類を眺め不敵に笑った。
仕事を再開したロイを盗み見ては背凭れに体を預けた。
真面目に書類の山を消化してゆくロイ。
何だコノヤロウ、できるなら初めからそうしろ。
ロイを睨みつけては思う。
大体お前がそうやって仕事を溜めて休日返上で働かなきゃいけない状況に陥るから
折角こうしてちょっと長い間司令部に腰を据えたって一緒にどこかへ出掛けたりもできないんだろうが。
心の中で悪態をついて不機嫌な表情になる。
口に出したらロイは調子に乗るので言わないが、は拗ねていた。
(・・・・じゃなくて、俺は別にどうせ暇潰しとかその程度にしか思ってねえけど・・・つうか、だから)
あ゛ー!!
心の中で叫んで頭を乱暴に掻く。
自覚はしているのだ。認めるには些か抵抗があるだけで。
それはつまり。
(・・・くそ、捕まえられたな・・・完全に)
自分にとってのロイの存在の大きさ。
ただ単純に、傍に居たいと想ってしまうのだ。
だからこうして会話もない部屋に赴き留まっている。
「・・・ど、どうしたのかね、」
「なんでもねえよ!サッサと仕事片付けろ、無能!」
の挙動不審さにロイが声を掛けると、は突如真っ赤になって怒鳴り返した。
ロイは訳が分からず頭上に疑問符を浮かべる。
明らかにの様子がオカシイ。
「具合でも悪いのかね?」
ロイはペンを手放し立ち上がった。ゆっくりとに近付く。
「・・・・別、に」
「どれ、熱は」
「・・・・」
ロイの掌がの前髪を掻き分けて額に添えられる。
は眩暈を感じた。
恋愛感情の意味で誰かに心奪われたのは初めてで、勝手が分からないのだ。
想われる事にばかり慣れて想うことに関してはてんで初心者である。
まるでガキだ。は唸った。
その次には、どうしてくれようこのクソ狐!と、理不尽な責任転嫁をした。
しかし余裕を奪われたとなるとに勝ち目は無い。
なんといっても相手はあのロイなのだから。
の頭は急激に冷静さを取り戻し、兎に角ロイに悟られてはならないと思い至った。
しかしさりとてそこは経験豊富なロイが遅れをとるはずも無い。
恋愛に関し手練れであり、かつロイはを好いている。一挙一動見逃すものかというほどに。
ロイはニヤリと笑った。
の背筋に悪寒が走る。
「き、気色悪い顔を、するな・・・」
じりじりと後退るに、ロイは満面の笑顔で詰め寄る。
「・・・ふふふふ。隠そうとしても無駄だとは思わないのかね?この私相手に」
「・・・・ッ、殴るぞ、ロイ!」
「」
ロイの手が持ち上がりの頬を包んだ。
ビクリとの体が大きく揺れるのを、ロイは困ったように笑って眺める。
「あんまりだとは、思わないか。私はもう何年も君に愛を囁いてきただろう」
その長いブランクを返せだなんて勝手は言わないが、逃げようとするのはあんまりだろう。
「俺は、こうと決めたら、しつこいぞ・・・っ!一生縛るぞ、いいのかよ、テメエは!」
は真っ赤になって搾り出すように言った。
が、ロイは怯まない。ふふんと男の顔で笑う。
「勿論だとも。・・・・私がどれだけの間ヒューズに妬いていたと思っている。」
ぐぐぐぐぐ、とは言葉に詰まり、とうとう項垂れた。ロイの肩に頭を乗せる。
ロイはくすくすと笑いながらの体を抱き締めた。
は少しだけ抵抗したがすぐに諦め、ロイの胸元をそっと掴んだ。
「あ、あんまり、女と話すのは、やめとけ・・・・」
「何故だね?」
「・・・・・俺の精神衛生上、だ。」
「なら君は他の誰かの匂いをさせないように」
「・・・・」
返事は、と少しだけ怒ったようなロイの口調に苦笑いして
は小さく頷いた。
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・・・・・んん?これは、ちょっと、ヤヤヤヤバイんじゃ・・・・!
主人公的ラブとなるとこうまさにドロ甘・・・!?がどんどんどんどん恋する少年に変貌!!
誠人さん・・・誠人さーん!!ごーめーんーなーさーいー!!
何かしらの励みになれば、と、愛を込めたんですが、ですが・・・。
もう・・・鼻で笑ってやってください。リクありがとうございました!!