「まるで“白い闇”だな」




それはもしかしたらにとっては
何でもない一言だったのかもしれない。

それでもその呟きは、
それを耳にした日番谷を戸惑わせるには十分だった。










The white dark cover my eyes









「松本、闇は何色だと思う」
書類を走る筆を止めて、日番谷は呟いた。

「・・・黒、でしょう。反射色の無い黒」
「だよな・・・」
「どうしたんです?」

少しだけ声音を固くして訊ねる松本に、日番谷は「ああ違う」と小さく手を振った。
心配されるような事ではない。

がな」

松本を見ず、どこか焦点の合ってない目で口を開く日番谷に
やっぱりの事かと松本は肩の力を抜くように溜め息を吐いた。

「・・・今朝、部屋から出た瞬間“白い闇だ”って言ったんだ」

「単なる言葉遊びじゃないんですか?ホラ、黒い白馬とかそういう類の」

「・・・それにしても」


性質が悪い、と日番谷は下唇を噛んだ。
あんな台詞をあんな表情で言うなんて。

太陽を仰ぐの横顔は思い出すほどに儚くなる。


「まったく、心配なら自分でを問い詰めればいいでしょうに」

心底呆れた、と言わんばかりに松本は眉間に皴を寄せて言い放つ。
日番谷は言外に、松本に探りを入れて欲しいと頼んでいるのだ。


日番谷は背凭れにゆっくりと体を預けて「そうだな」と呟いた。
そうなのだけれど。
自分では多分簡単に躱されるのがオチだと思った。

「それにしても隊長」
「何だ」
を部屋に泊めたんですね?」

しまった。

顔を真っ赤にして無視する日番谷を見て
松本は意地悪そうに笑いながらそれでもそれ以上は何も言わなかった。











「アラ、
「よお松本チャン、今日も美しいね」

詰め所を出て少し歩いた所で、松本はすぐにに出くわし足を止めた。
廊下の手摺に腰掛けたは気だるげに空を見上げている。
松本は腰に手を置いて少しだけ微笑んだ。

「何してるのよ」
「・・・なんだろなー・・・光合成?」
「植物じゃあるまいし」
「人間も同じさ」

視線を合わさないままの

「どうしたの?」

長く美しい髪をかき上げて松本が問う。

「・・・ん?」
「らしくないわ」
「そうだっけ」
「そうよ」

そうか、と呟いては視線を下ろす。
俺らしいってどんなんだっけと考える。
けれど答えは出なかった。

「・・・ねえ、隊長に聞いたんだけど」
「何をー」
「白い闇って、何なの?」
「ああ、それか」

ゆっくりと微笑むその横顔はやはりいつもとは違う。
どこが違うと問われれば何も具体的なことは言えないが。

松本は日番谷が不安になるのも分かる気がした。

はゆっくりと腕を伸ばし陽の光に翳した。
反射する肌の白さが眩しい。


「暗い場所から、明るい場所に出た瞬間眩暈がするだろ」
「・・・え?」
「目の前が真っ白になって何も見えないような、さ」


それは闇だとは思う。
何も見えない、何もないあの闇と同じだ、と。


「たまに思い出すんだよ、そういうの。
 幸せが続くと自分が幸せだとかいう事も、忘れることがある。当然になって意識しなくなる」 
 


まさか、と松本は思った。
まさかそんな事、と思った。


「とーしろーの部屋出た瞬間に、そういうの思い出してさ。
 ああスゲエ幸せだなーって思い出したわけ。好きだなーってさ」

「・・・」

「なんかこう毎日愛されてさーそれが普通になるのってアレだ、
 光が強すぎると何も見えなくなるのと似てるだろ?」


ま、毎日・・・と松本は眩暈を起こしそうになった。
深い意味を勘ぐってしまうのは、の見せる肌が美しいからで、そして。


「だから」



ゆっくりと松本に向く双眸が透き通るガラスのようだからで。
性別も年齢も存在意義も関係なく誰もを誘惑するような、声が。


「白い闇」

脳髄に響く。









「・・・やっぱり」

「ああ?」


やっぱり私は今、壮大な惚気話を聞かされているのね、と、
松本は頭痛を感じながら項垂れた。
無言で踵を返す。


(あのクソガキ隊長っ・・・だから言ったのよ自分で聞けって・・・!)

人の恋路に片足を突っ込んだ挙句まざまざと見せ付けられるなんて冗談じゃない。
ごちそうさま、だなんて言える余裕も松本には残っていなかった。

なんといったって、そう、過去には松本も少なからずに特別な感情があったからで。



荒々しくなる足取りを隠そうとせず、松本はその場を去った。






その後。






「松本、どうだった」
「・・・」
「松本?」
「知らないわよ、ガキ」
「!?」



冷たいというよりは酷い態度で松本に接され
困惑と不安に打ちひしがれる日番谷の姿があったとか。













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120000リク、ありがとうございました朔さん!
どうですか期待外れですかすみません土下座します!
こんな駄文ですがよければ受け取ってやってください・・・!
ああもう・・・ああーどうしようー!