それはある日の美化委員室にて。

さんは雲雀さんとどうして仲が悪いんですか」

今更で、けれど考えてみれば今まで誰も口にしなかった疑問。
それはまったく本当に今更だったので仕方のない事なのだが。
誰から見ても初めから二人の仲は険悪で、だからこそそもそもの本当の始まりなど考える必要は無かった。

そんな疑問をまるで「今日はいい天気ですね」という平凡な挨拶の後についてくるかのように
簡単に口に出してしまったのは未来のボンゴレを背負うだろう男、沢田綱吉。

人の上に立つ者はかくも常人には理解しがたいものだ、と、
彗はツナに新しくお茶を入れながら事の成り行きを見守る。

は窓に腰掛てシャボン玉を飛ばしていたが
その質問に手を下ろしいつもの寝惚けた顔と覇気の無い声で「せやなぁ」と呟いた。
内心苦笑いを零して。

「雲雀がカワエエからやろなぁ」

ポワリと漂うシャボン玉。
七色に光って、消えた。










合法ドラッグを














「可愛いからだって」
教室に戻ったツナは「どこに行ってたんですかスゲエ心配したんですよ十代目」と
子犬のように纏わりつく獄寺を無視して呟いた。

どう控えめに見てもツナの知る雲雀は可愛くはない。恐ろしいという形容がしっくりくる。
美人だとは思うが、かわいいというのはどちらかといえば獄寺のほうが似合っている言葉だとツナは思った。
獄寺に言えばきっと泣いてしまうので言わないが。

無視されてもめげずに獄寺はツナの意識を自分に向けようと言葉を続ける。
「十代目、アイツの言う事は全部嘘です。適当です。その清らかな御耳を汚す戯言です」
「獄寺クン、ウルサイ」
「じゅ、十代目ぇー!」
「獄寺君って可愛いよね」
「・・・・・・・・・」
獄寺はきっちり十秒固まって、項垂れて、
「それ褒め言葉じゃないっすよね」
と、泣いた。
あーあ、やっぱり。と小悪魔ツナはため息を吐いて向かいの校舎の最上階に視線を向ける。
そこは風紀委員会の巣窟、応接室がある場所だった。

「十代目、オレは十代目にどこまでもついていきますけどできれば、
 ・・・・できれば、できるだけ、あのメガネ野郎に悪影響を受けないでくださいね」

ダメージ多大だったのか力なく唸った獄寺にツナは微笑んで。

さんに可愛いって言われたんだ?」

きっちりと子犬に止めを刺した。
顔を覆って何やらぶつぶつとへの罵詈雑言を呟く獄寺の耳が赤かったのは秘密の話。






応接室の黒い革張りのソファーで昼寝をしていた雲雀は
ひんやりと頬を撫ぜる風に目蓋を少しだけ持ち上げた。
閉めていたはずの窓が少しだけ開いていて、そこから風が入っている。
窓の近くにあったテーブルには見覚えのない花瓶と、その中に花。
そして背後に、気配。

「何の用」
ごろりと天井を仰いで雲雀は呟いた。
気配はくくくと楽しそうに笑う。
眠りの浅い自分が気付かなかった。というよりは気付かせなかったのだろうと雲雀は考えて体を起こした。
気配の主が視界に入る。

「噛み殺されに来たのかい」
「応接室に花を届けに来ただけや。自意識過剰やで、ボク?」
「・・・・・・・・・」

気配の主は、笑って。
冷たく笑って雲雀から離れ窓に向かった。
窓枠に座って取り出したのはまたもシャボン玉。マイブームらしい。
しかし風は外から部屋の中へ吹いているので、シャボン玉はその流れに沿って雲雀に向かって飛んだ。
肩に当たってパチリと弾ける。

「避けやー」
「・・・制服が汚れた」
「お前の心の方が汚い。安心しィ」
「喧嘩売りに来たんならそう言えばいいよ、僕はいつだって買うから」
「せやから自意識過剰やって。お前相手にそんなん売る暇無いわ」

例えばこれがではなく、もう一人の美化委員だったなら。
そしたら応接室はまさしく戦場となっただろう。
しかし雲雀は小さく息を吐いただけで動かなかった。

それはこの会話こそがお互いの“普通”であるからだ。
傍から見れば険悪だが、彼らにとっては一種の友情でもある。・・・いやそれはない。
ないが、まあ、険悪ではない。
一種の常習性と依存性を含んだ、とても歪んだ関係。



「獄寺が犬で雲雀は猫やな。」
「あのヤニ臭い男と同列視されるのは不愉快なんだけどね」
「じゃれて甘えるくせによお懐かへんし」
「・・・・・・・・」





雲雀は無言で立ち上がり、に近寄った。
ずんずんと近付き、覆い被さるようにして窓に手を掛ける。
「寒い」
言って、の無防備だった首筋に歯を立てる雲雀。
唇の冷たさに「あー冬やからな」とは暢気に答えた。
そうそう、猫も一応肉食だったと思いながら。

「犬には懐かれてるって言うの?気に喰わないな」

もっともそのまま首筋に掛かる息は熱いほどだったが、それは無視しては再びシャボン玉を飛ばした。


窓枠に押し付けられ、視界を遮る雲雀の向こうに虹色の球体が儚く散ったが
の意識はすでに圧倒的な熱に奪われている。



目が眩むような、異様な逢瀬。
呟かれる睦言は合法ドラッグ。

余計な手間など殴り捨てて、
さあ、剣呑な言葉と刺激と隠れた甘さを頂戴、と、雲雀が囁いた。















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144410キリリクありがとうございました哉禰さん!
非似雲雀・・・・!!そしてそこはかとなくいやらしい・・・!意味不明だし!
仲悪いと見せかけて彼らなりのラブラブ(古い)なのだよという話です・・・。

なんだか勝手にこんなの書いてしまいましたが、よろしければ捧げさせて頂きたく!
・・・ああもう、自分ばっか楽しんでどうする気だ誉はー!!(逃)