空は晴天、風は穏やか。


麗らかな春の早朝に、の絶叫が木霊した。






「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」



にここまでの絶叫を上げさせられるのは、奴しかいない。



そう、の天敵。









黒く光るアイツの登場である。











                                                        黒くて丸くてすばしっこくて











「殺す、ゼッテー殺す・・・・」






は自室で呟いた。


は片手に新聞紙、もう片手には草履。

ふざけた格好ではあるが、の放つ殺気は本物だった。




「一匹いれば百匹いる・・・殲滅させてやる、壊滅させてやっからな!!!」




日頃の余裕は跡形も無く消え失せ、涙目ながらも半笑いでは仁王立ち。





黒くて、テカテカしてて、カサカサーで、ワサワサーなアイツ。





の人生において、一生仲良くできないし、またしようとも思わず。

唯一、体が本能的に拒否する存在。





「焼くか・・・いや、駄目だ!匂いなんか出てみろ、俺はこの部屋に二度と足を踏み入れられない!

 水攻め!?・・・いいや、そんなひ弱なヤツじゃない!!毒か!刻むか!?どれもこれも何か嫌だ!!」





しつこいようだが、はいたって本気である。

は悩んだ。

いっそ部屋ごと吹き飛ばすか、とも考えたが思い留まる。

如何にこの部屋に何の被害も無くアイツを仕留めるか。それが問題だ。




「ちくしょう・・・何で、何で俺様がこんな目に・・・!!」




握り締めた草履と新聞紙を視界に納めては吐き捨てた。


黒くて光って飛んでカサカサなワサワサーなばい菌まみれのアイツ。



口に出すのもおぞましいが、は叫んだ。






「ゴキブリなんぞこの世から消滅してしまえ!!!」





の唯一にして最大の天敵。



その名はゴキブリであった。















の悲鳴を聞き逃さなかった日番谷は、しかしそ知らぬ顔で松本が持ってきた書類に目を通していた。


「行かなくて、いいんですか」


松本の声に日番谷は視線も向けないまま小さく首を振る。



「仕事中だ」


「叫んでましたね」


「アイツが叫ぶといったら、アレだ」


「アレ?」




日番谷は顔を上げた。

松本の目を射抜いて、意地悪そうに口を吊り上げる。




「ああ、アレだ」




だからアレって何なのよクソガキ。



松本は思ったが、有能であるがゆえに口には出さなかった。












その頃。




「何なんだよ、謎の生命体か!?不死身かあいつ等は!!

 叩こうが殺虫剤ブチ撒けようが死なないって何なんだ!?」




は全身武装で戦っていた。


新聞は鞘に持ち替え、草履は殺虫スプレーに。



しかしゴキブリはの予想以上にすばしっこい。



癇癪を起しそうになりながら(というか起しながら)は視界の隅に入った黒い影に全神経を集中する。




両の掌に力が篭る。



は目蓋を閉じた。微かな移動音を逃さず、空を劈く声を張り上げる。






「全世界の人類と死神を代行して、鉄槌を下す!!


 くらえ、コックローチ・デストロイ(ゴキブリ大破壊)!!」






ブショワーーーーー!!!






は渾身の一撃、もとい、ひと噴射をゴキブリめがけて叩きつける。







が。







カサカサカサカサーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!








華麗な動きでゴキブリはそれを回避し、吹きかけた薬剤は見事空振り。



昨日干したばかりのの布団に命中しただけだった。





「!!!??」





あまりの出来事には固まる。



ふわふわで陽の匂いがしていた布団が、憐れな姿になっているのを確認して。





「やってられっかあああああああああああああ!!!明けろ、東雲えええええええええええ!!!」








大暴走。








かくての部屋は見事に周囲を巻き込んで吹っ飛んだ。













「・・・・行かなくて正解だっただろう。」



「そのようですね」



窓から見える景色の、遠く向こうで立ち昇る黒煙を眺め日番谷と松本は和やかに茶を啜っていた。



そして茶を飲み干した日番谷は湯飲みを机に置き立ち上がる。



「隊長?」


「仕事は終わった」


「・・・いつの間に。案外やり方が巧妙ですね」


松本の言葉に日番谷はフンと鼻で笑った。



を欲しいと思えば自然と身に付く」



随分気障なセリフを言っている事を自覚しているのかしら、と松本は笑ったが、


やはり有能な彼女はそれを口に出すこと無く、日番谷を見送り出した。





の自室に向かう途中、日番谷は緩みそうになる顔を必死で隠していた。


これまで学習した事のひとつ。

アレ出現で大暴れした直後のは憔悴しきっていて、本気で可愛い。



いや、普段から可愛いんだけどよ、と日番谷は一人ごちる。


そしての自室(があった跡地)に着いた。




。」



瓦礫の中に蹲るに声を掛けると、は物凄い速さで日番谷にしがみ付いた。

瞬間必死に押さえてきた顔の緩みが露出する。


「とーしろ、とー・・・っしろ!」


「ここに居る」


陶酔するように日番谷はの背中に腕を回す。

腰が抜けたように跪いて日番谷に抱きつくの頭が、丁度日番谷の腹の位置で。



「・・・と、しろ・・・っ!アイツが・・・!」

「ああ、分かってる」


皮膚を突き抜け内臓に届く甘い響きに、少しだけ罪悪感を抱く。

もう少し早く来ればよかったか、と。



頭を撫でようと、日番谷は片腕を持ち上げた。



瞬間。





「分かってんなら早く始末しろっ!!まだ一匹残ってんだよーーーーーーーーー!!!」



ドカーン!!



「!!??」



貧乏くじを引く体質なのか。

軽く小さい体格がそもそも問題なのか。



に突き飛ばされた日番谷はすっ飛び見事に後頭部を強打した。



「ホラ其処!!ボーッすんな馬鹿たれ!!カサカサカサカサしてんだろがいーー!!」


それに一切構わずは叫ぶ。

怒鳴るとかそんな余裕は日番谷に無かった。

というか脳が揺れて正しい判断ができないだけだが。



頭を擦りながらが指差す方向を見る。



黒光りする、ある意味最強な生物ゴキブリが一匹。確かに日番谷の目の前に居た。




に勝つ・・・秘訣は何なんだ・・・)



どこか間の抜けた事を真剣に考えながら日番谷はゴキブリを眺めた。


その日番谷の様子には再び癇癪を起す。



「早くしろ!!お前ごと吹っ飛ばすぞ!!」


怒鳴り散らしては東雲を構えた。




「・・・ったく・・・」


最早呆れ絶頂で日番谷はヒョイと手を動かし。



「これで良いんだろうが」






ゴキブリを素手で掴み、持ち上げてに見せた。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」















「・・・・?また叫んでる・・・結局アレって何なのかしら」


松本は十番隊で首を傾げた。









後日。





「えんがちょー!!触るな、とーしろー!!」

「なんだとテメエ!!」

「そうよ、。隊長はアンタの為にやったんだから」

「松本・・・」

「あ、隊長。触らないでくださいね」


「お前もかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」




アレが出現した日は。

どんな誘惑にも耐えに近寄るなかれ。


日番谷はまた一つ学習した。



めでたしめでたし。





・・・・・・・・だろうか?







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ギャグです。ハイ。すみません、ひっつー・・・不幸過ぎましたかもです。

その、根っからって言うことで・・・・こんな、こんな・・・・ああ・・・・(沈

折角のリクが台無しな感じで、その、スイマセンデシタ!!!

こんなんですがシアンさんに捧げたく・・・!!

ありがとうございましたー!!