「お前の野望には甘さがある」




「何?・・・どういう意味だね」






長く伸びた、癖のある前髪を掻き上げてはロイを見据えた。


その視線を真正面から受け止めるロイ。




「それは」



「それは?」



ロイの反問には一瞬目蓋を閉じて、そして何かを決意するように見開く。





「ミニスカだけがアレじゃない。膝丈深スリット・・・・どうだ」


「ふむ・・・盲点だな」





傍に居たエドとアル、そしてロイの誇る部下数人は、あまりの馬鹿馬鹿しさに眩暈を起した。














                          
ゴージャス・タイム・スペント・ウィズ・ユー















「大佐、仕事をしてください。も報告書がまだ提出されてないわ」





いつもの通り、涼しい顔でリザは言うが、その一言でロイは身の危険を察知し“うむ”と執務に戻る。

は面倒臭そうに視線を流してエドを見た。





「つうか、鋼。何してんのお前」



「ほっ・・・報告書出しに来たんだよ!!悪いか!!」



「んなしょっちゅう出さなくてもいいだろ。律儀だな」




エドにしてみれば、に会いに来る口実がそれしか思いつかないだけであるが。


勿論言える筈もなく、顔を赤くして俯いた。




「お前は提出しなさ過ぎ。溜め過ぎ。いいからサッサと仕事しろよ」



ハボックがの頭を乱暴に撫でながら言った。

その仕草にロイとエドはあからさまにムッとする。




「ハボック。気安く触るな」


「そうだぜ少尉。」



殺気を露に詰め寄る二人に、ハボックは咥えていた煙草を落としそうになりながら両腕を挙げた。


・・・降参の意味を含めて。




「いや、この後と用事があるンすよ、だから・・・」




苦し紛れの言い訳。


ロイの眉が不快そうに跳ねた。




「用事?」



「俺が誘ったんだよ。デートに」




「「デッ・・・・!!!!」」





からの返答に、ロイとエドは同時に声を上げギッとハボックを睨む。


は楽しそうに笑っているが、ハボックは生命の危機を感じて汗を流した。



「き、訊いてないッスよ、そんなの!!俺はただ買い物に付き合ってくれって言われて・・・・!!!」



「立派なデートではないのかね?ハボック少尉」




顔面蒼白で弁解するハボックにロイは顔を近づけて笑う。


それは絶対零度の笑み。






「放せ、アルーーー!!!」



「・・・兄さん、落ち着こうよ・・・・」


暴走寸前なエドはアルに羽交い絞めにされている。





「止めないのか?」




は傍観を決め込みながらリザに尋ねたが、リザは小さく息を吐いて首を振った。



「・・・・デート、ですか」




リザに投げかけられた質問には顔を上げる。

ガラス細工のような洗練された青の眼に、リザは吸い込まれるように見入った。




「気になる?」




「いいえ、単なる興味です」




「それを気になるって言うんだぜ?」



は立ち上がり、報告書をパサリとリザの手に乗せた。




「ヒューズへのプレゼントを買うんだ。その荷物持ち」


ああ、なるほどね。と、リザは微笑んで、ついでに男三人の不憫さに同情した。

結局には振り回される運命なのだ。


(私もそうだけれど)


それが心地良いとすら思えるのだから、厄介極まりなかった。












「で、何でお前までついて来てんだ。ロイ」


「当然だろう。少尉と二人きりなど許せん。」



驚異的なスピードで仕事を片付けたロイは、とハボックに並んで街中を歩いている。

因みにエドは外せない用事があると、泣く泣く帰っていった。





「別にいいんスけどね、俺は」





心底呆れたように言ってハボックは煙草に火をつける。

実際は心中穏やかではなかったが(結果的にと二人きりのチャンスを潰されたわけで)感付かせない。



しかしの腰に手を回そうとしているのに気付くと、眉を顰めてロイを睨んだ。



「セクハラッスよ、大佐」


「フン、スキンシップと言いたまえ」



平然と言い放つロイにハボックは更に不機嫌な顔になる。


一触即発の空気が二人の間に奔った、が。




「なあ、コレとか似合いそうだろ?ヒューズに!」





は豹柄のシャツを手に二人を振り返った。




滅多に見られない心底可愛い笑顔を二人に向けるに、ロイとハボックは顔を見合わせて。




情けなく、しかし幸せそうに笑った。
















RRRRRRRRRRR。



ロイの家の電話が鳴ったのは、深夜近い頃だった。


「はい。」


書物から視線は放さないまま受話器を持ち上げ耳に当てる。




『よお、ロイ』


「ヒューズ?」



相手は、今頃と楽しく過ごしているだろうと思っていたヒューズだった。


と居たんじゃないのか」


『ああ、そうなんだけどよ。仕事が入っちまってなあ・・・悪いがを迎えに来てくれねーか』



過保護にも度が過ぎる。その言葉にロイは眉を顰める。


「・・・・何故だ。」


『かなり飲んじまって起きないんだよ。いや、最初はお前の部下に電話しようとしたんだががお前が良いってな』


苦笑いをしながら言うヒューズに溜め息を返してロイは時計を見た。

が自分を望んだという事実が心底嬉しく、押さえようにも頬が緩む。


ヒューズの居る宿舎まではそう遠くない。






「10分で行く」




電話を切ると、ロイは上着を掴んで早足で部屋を出た。













「悪いな」


「構わん」




ヒューズの部屋に着いて、中に入れば。





「一体どれだけ飲んだんだ」

「んー・・・ま、ちょっとな」



はベッドで幸せそうに眠っている。真っ赤な顔で酒瓶を抱えたままだ。



ロイはの膝の裏と背中に腕を差し込み持ち上げる。

くてん、と、完全に自分に身体を預けるにロイは小さく微笑んだ。



その様子を見ていたヒューズは楽しそうに笑う。


「本気なんだなーお前。初めて見たぞ、そんな顔」




ヒューズの言葉にロイは不敵な笑みに切り替えた。

まるで世界は自分のものだというような、尊大で威圧的で。



どこか途方も無い愛を含む。




「当然だ。・・・を愛するのに本気以外は有り得まい」




ヒューズは照れた様に頭を掻いて二人を見送った。











青い影を作る月夜の下を、を背負って歩く。

耳に届く寝息と、背中に広がる体温が愛しくて堪らないとロイは目蓋を伏せた。



が傍に居るだけで日々がなんと豪華絢爛な喜びに満ちていることか。




「・・・・・誘惑に負けているだけとも言うがな」




それが何よりも自分の力になるのだと、ロイはの顔を覗きこみ。






一瞬掠めるだけの口付けを落とした。












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誠人さんに捧げるロイとの愛のセレナーデ・・・・・。

軍部となるとどうしてもハボやヒューズを出張らせてしまいます。ごめんなさい。

そして書き上げて、ふと・・・・思う・・・・、最強?

・・・・えっと、その・・・リザさんも手玉に取っちゃうあたりが最強だという事で勘弁してください。

その、その・・・ありがとうございました!!(逃