「腑に落ちねえ。」
は胡坐をかき、腕を組んで呟いた。
ある麗らかな朝の事。今日はは臨時休暇。
「絶対ぇ何かある」
だからこその機嫌は急降下する。
年に一度、決まって理由も教えられず休暇を与えられる。
そして次の日には異動が決まっていたりそうでなかったり。
今までは然程気にしてはいなかったが、こう何年も続くとさすがに気になる。
「ちょっくら探るか・・・」
ペロリと下唇を舐めては立ち上がった。
かくれんぼ狂想曲
瀞霊廷は緊迫した空気に包まれていた。
それは力の弱い死神なら意識を失うほどで、朝から何人もの死神が四番隊に担ぎ込まれた。
その原因を一番隊室に集まった隊長格達のみが知っている。
空気を占める壮絶な霊圧。
迸る殺気。
一番隊隊長山本は咳払いを一つして、薄く目を開いた。
「さて、集まってもらったのは他でもない。恒例の日じゃな。」
その言葉に他の隊長格は表情を変える。
笑う者、眉間に皴を寄せる者、様々だが。
「ほなサッサと始めよ。今年も結果は同じや」
ギンは愉快そうに顔を綻ばせて言い放つ。
「言ってろ。去年は卑怯な手使いやがって」
日番谷はギロリとギンを睨んで吐き捨てる。
「同感だね。今年は同じ手は通用しないよ」
藍染が眼鏡を指で持ち上げて言うと、浮竹は柔らかい表情を崩さないまま頷いた。
「一年間独り占めしたんだから辞退して欲しいねえ。」
享楽が咥えた草を揺らしながらギンを牽制する。
白哉は無表情のまま、それでも気合は十分、といった様子。
「やめんか。・・・さて、ルールは例年通りじゃ。
定められた勝負方法で最後に残った者が権利獲得。最終勝者確定不可能の場合は権利は一番隊になる。
相手が降参、もしくは戦闘不能になった場合は速やかに引くように。
規則を破ったものは問答無用で失格、来年の参加も禁止じゃぞ。
さて、最後に一番重要な今年の勝負方法は・・・・・」
山本はそこまで言って言葉を途切り、目蓋を閉じた。
視線が集中する。
ゆっくりと目を開いた山本は周囲を見渡し、威厳を滲ませて告げた。
「“かくれんぼ”じゃ!!」
因みに去年はダルマさんが転んだだった・・・・。
つまり、毎年の所属する隊はこうして各隊隊長が争い勝ち残った者の隊に決められる。
そうしなければ毎日が争奪戦になる為、山本が決めた事だった。
一年間と同じ職場の権利。大半の隊長格には何とも魅惑的な話である。
昨年はギンが彼らしい卑怯な手を駆使して勝利し、それはそれは楽しい一年を過ごした。
なんと言ってもこの勝負、純粋な攻撃が許されない為頭を使わなくてはならない。
そしてこと悪知恵においてはギンの専門分野だった。
にさしたる興味が無い者、また他隊の隊長と争うまでの価値を見出さない者は早々に辞退してゆく。
残ったのは三、五、六、八、十、十一、十三番隊の隊長。
細かいルールの説明がなされ、その場の全員はそれを頭に叩き込んでゆく。
隠れていいのは瀞霊廷内。時間は日没まで。
鬼は全員を捕まえれば勝ち。
その他は自分以外を罠に嵌め、鬼に捕らえさせながらも時間まで逃げ切れば勝ち。
負う者負われる者双方共に命に関わる攻撃はしてはならない。
そこまで言って山本は厳しい顔つきで目を開いた。
「決して、には悟られるでないぞ。・・・・・以上」
こうしてここに、毎年恒例行事の争奪戦の火蓋は切って落とされた。
激しいジャンケンの末、鬼は日番谷になった。
ブツブツ文句を言いながら中庭の大きな木の枝に腕を付いて目隠しをし、数を数え始める。
それと同時に四方八方へ全員が散ってゆく。
「いーち、にィーい、さーん、しィー・・・・」
数を誤魔化すこともなく数えながら、日番谷は毎年思うことをまた懲りずに思っていた。
(・・・オレは何をしてるんだ・・・・)
馬鹿馬鹿しいにも程がある。分かっている。自分のこの姿の滑稽さ。惨めさ。無様さ。
それでも結局毎年答えは変わらずあり続ける。
(手元に置いておきたいんだよ、結局)
一瞬でも視界からの姿が消えれば不安で。
いつでも声を聴ける距離にいたくて。
手を少し伸ばせば、あらゆる危険から護れる位置にいたくて。
この世界の、全ての不幸から遠ざけていたい。傍で、ずっと。
(本当に、無様だな)
「九十九・・・・百」
日番谷はゆっくりと腕を下ろし、空を仰ぐ。
その眼に迷いは無かった。自分を卑下する想いも無い。
本当に愛する人に、虚勢など張れない。
それは日番谷がに出会って初めて知った、この世の理だった。
「覚悟しろよ、オヤジ共。オレは形振り構わないぞ。」
日番谷は清々しく笑って、大きく地を蹴った。
「何してんだ・・・・あの連中・・・・」
は気配と霊圧を完全に断ち切り、木の上からその様子を眺めていた。
まさか。まさかとは思うが。
はグラつく頭を押さえる。
「お・・・・俺に、休み、とらせて・・・・・かくれんぼ・・・・・?」
まさか毎年こうやって遊んでいたのか?
自分を、わざわざ・・・な・・・・仲間外れにして・・・・?
「ふ・・・・・ふふふ・・・・ふふふふふふふふふふふふ」
まるで地を這うような笑いを零して、伏せていた顔を上げる。
眼は完全に据わっていた。
「上等だ、乱入してやる・・・・!!」
拳を硬く握り締め、は声高らかに宣言した。
ここに史上最強の鬼が誕生したが、それは誰ひとり知らないままであった。
日番谷は困惑していた。
探しても探しても、誰一人見つからないのだ。
確かに一筋縄ではいかない相手ではあるが、しかし不自然にも程がある。
「何だってんだ・・・・」
疾走しながら呟く。
剣八あたりはすぐに見つけられると踏んでいた日番谷は舌打ちする。
時間制限がある以上、ゆっくりもしていられない。
「・・・・!?」
前方に人影を見つけて、日番谷は踵で急ブレーキをかけて止まった。
太陽を背に立つその人影は、逆光で誰だか分からない。
光を遮る様に掌を翳す。
その人物は目の前に居るのに、気配も存在感も何もかもが消失している。
まるで幻想のようなそれに、ある名前が日番谷の脳裏に浮かんだ。
「・・・・・・?」
その声に、幻想はニヤリと笑った。・・・笑った、気がした。
そして。
「捕まえた」
その声が聞こえた瞬間、日番谷の意識は何かに引き摺り込まれるように暗転した。
「・・・・お前ら全員捕まってたのか」
日番谷が気付いた時、一番に目にしたのは自分と同様に後ろ手で縛られた隊長格の連中だった。
「煩ぇ、不意を突かれたんだ!」
「うーん、さすが君だねえ」
「・・・・・・」
「あーあ。残念だなあ」
「はははははは」
「せやけどこれ、勝負どうなるん?」
上から剣八、藍染、白哉、享楽、浮竹、ギン。
彼らを尽く、いとも簡単に捕まえたのは他でもない・・・・だった。
当のは山本に物凄い剣幕で詰め寄っている。
「このクソジジイ!!人を景品扱いしやがって!!馬鹿にしてんのか!?」
「しかしのう、こうすれば一年平和に過ごせるんじゃから・・・」
「んな事知るか!!俺の知らない所で何やってんだ!!ああムカつく!!
そーかそーか、毎年恒例か!毎年こんな事してやがったのか!!」
「・・・ううーむ、だが他に良い手もないじゃろが」
「あるわ!!」
勢い良くは振り返り、隊長連中を睨んだ。
誰かがゴクリと生唾を飲む。・・・・それ程にの顔は、怖い。
「俺が決める!!」
昂然と響く声で言い放つ。
一同は一瞬で表情を明るめた。
「せやったらこのまんま三番隊がええよな?!」
「勿論六番隊だろう。・・・面白い玩具(恋次)も居る・・・」
「ああ!?十一番隊がイイに決まってんだろ!!」
「雛森くんが待っているよ、君」
「皆興奮しすぎだ。十三番隊はいつでも歓迎するよ、」
「やだねー、皆息巻いちゃって。最初からチャンの気持ちは僕に向いてるんだから」
皆が口々に言い合う中、日番谷は複雑な表情でを見詰めた。
直ぐに、視線が繋がる。
「・・・」
「お前まで参加するとはな。・・・・最悪だ」
冷たく一蹴され、視線も逸らされる。
「・・・・・」
憐れ日番谷は、力なく項垂れた。
はスウッと息を吸い、言い放つ。
「向こう三年、二番隊所属希望!!以上!!」
青筋を立て、半笑いで言い放ったに反論できるものなど居るはずもなく。
「・・・・という事じゃ。解散」
山本は一同の憐れさを憂いながら告げた。
後日。
「隊長、二番隊から伝言です。」
「何だ、松本」
「“馬鹿な事するからだクソチビ”・・・・だそうです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
日番谷が立ち直るの、まだまだ先の事。
そして晴れてを獲得した二番隊では。
「可愛いなー。砕蜂。ね、ね、コッチ向いて」
「・・・・仕事をしろ・・・っ」
「キスしてくれたらね」
「・・・・っ・・・何で、私がこんな目に・・・・・!!」
隊長である砕蜂が、今日にも山本にの異動願いを出そうと心に誓っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・はい。ごめんなさい。スミマセン。もう、どうしようもなかったんです・・・・!!
これでも必死だったんです、頑張ったんです、限界なんですうううう!
スミマセン、何言っても言い訳ですね・・・・。そもそもなんでこんなギャグになっちゃったんだろう。
公理さん、リクありがとうございました・・・。こんなのですがどうか捧げさせてください。