「夢だ。これは夢だ」
「いや、夢じゃなーいよ」

は頭を抱えてその場に蹲った。
そして脳内でぐるぐる考える。

ああ俺には未だ自立していない弟が四人もいるのに。
両親がいないから俺が働いて食わせなきゃならないのに。
というかあの家に弟達だけにするのは不安すぎる。
男を連れ込みやしないか。
また引き篭もってないか。
どこぞのナンパ男に貢がせてないか。
そのナンパ男を殴って病院送りにしてないか。

なのになのに、夜自分の部屋で寝て、目が覚めたら林のど真ん中だなんて。
見渡す限り見知らぬ土地だなんて。
しかも目の前には忍者の男だなんて!


「じゃ、じゃあ、幻覚だ・・・!!」
「でもないねえ」

胃がキリキリと痛みだす。
は地面に手を着いて項垂れた。
こんなにも俺は日々苦労しているのに、神様、これ以上は死にます、と呟く。



傍に立っている男は、さてどうしたものかと頭をかいた。
どういう事情かは知らないが、見下ろす男の背中はなんとも同情を誘う。
俺って結構お人好しかも、と顔を綻ばせて肩を指先でつついた。

「とりあえず、お茶でもどう?」

ナンパのような台詞に変な顔をしたを見下ろして
男はニコリと笑った。









必殺苦労人想曲












昼間に寄った茶店は、夜になって装いを変え居酒屋となった。
カウンターの隅で二人は並んで座っている。

「・・・・というわけで、俺は!!14歳で常備薬に胃薬と頭痛薬を持つようになったんだ!!
 神経性急性胃炎22回、胃潰瘍3回、慢性頭痛、腹痛、胃痛・・・・!!」

はゴトンッ!!と乱暴にコップを置いて捲くし立てる。
その目の前でカカシと名乗った男は苦笑いを零した。

カカシとしては突然現れたの素性を聞き出すつもりだったのに
話はどんどん苦労話に逸れてゆき、結果酒を片手に愚痴を聞かされることになったわけで。

「・・・じゃあ、こっちに来たのは幸運だったのかーもね」

が別世界から来たという話は納得した事実で
しかも里に害は無いと分かった以上、追い出す必要も無い。
カカシはそう説明してを意地悪そうに微笑んで見た。

「そんなに大変なら、ここに住めばいいよ。仕事も探してあげるよ?」
「・・・」
「俺の家使って良いし。俺はあまり帰らないから」
「そ、それは無用心だ!!知って間もない男相手に何を言っている!!
 物取りだったらどうする!?もっと用心深く物事を考えてしかるべきだ!!」
「あのねえ、そういうの考えるならそこまで苦労してないデショ」
「ぐう!!」


確かにそれはその通りで。
は大袈裟に突っ伏した。
その動作がやけに可愛く思えて、カカシは笑う。
世話を焼きたくなる人だなと思った。
損をしやすくて、だから放っておけない。

カカシはの肩に手を添えて顔を近づけそっと囁いた。

騒がしい店内でもそれはの鼓膜を刺激する。


「帰る当てが見つかるまででも、おいで?」
「・・・・・」
「遠慮できる立場かーな?」
「・・・・・世話に、なります」


思い切り不本意そうに言ったに、カカシは笑を堪えられなかった。







「汚い!!」
カカシの家に入ったの第一声は、それだった。
「男の一人暮らしってのはこんなカンジじゃないの?」
「それは言い訳だ!不衛生にも程がある!兎に角散らばったこの服は向こうに片しておけ、後で洗濯する!
 ギャアー!!ゴミぐらい捨てろ!!えっ・・・エロ本は隠せ!!男児の義務だ!隠せ!何だこの台所は!腐海か!!」
「はいはい」

ぎゃあぎゃあと怒鳴り散らしながらも部屋を綺麗にしてゆくの背中を盗み見て
カカシは、これからはちゃんと家に帰ろうとか考えていた。
きっとその方がずっと楽しいと確信して。

「何をニヤニヤしている、動け!ぎゃ!使用済みの下着まで放っておくな!!」
「・・・今度エプロン買ってあげるよ」
「ああ、それはいいな必要だ。ついでにはたきと箒だ。塵取りもいるな。」
「ふりふりの買ってもいーい?」
「殴るぞ!」
 



ああ明日からは仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってこよう、なんて。
カカシが考えているなんては知る術も無い。

今のところは。










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何この続きそうな終わり方・・・続く予定は、今のところ無いのですが。