より王子













「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」















だだっ広い道明寺屋敷の一室で。
片頬を見事に腫らして不機嫌極まりない道明寺を前に、は腹を抱えて笑い転げていた。

「笑うな!!」

顔を真っ赤にして怒鳴った道明寺は、「あいててて」と頬を押さえて唸る。
それを見ては両手を叩き更に笑った。喜劇を観ているように。

「いやーいいねぇそのお姫様最高!チョー最高!“自分で稼いだ事もないガキ”!!
 まーさーに真理だ!ぐうの音も出ねーな、どーみょーじ!」

「うるせえよ、庶民の僻みだろうがあんなモン!」

「ふふん、超ど級馬鹿め。そこが可愛いっ」

「抱きつくんじゃねえよ!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を眺めて西門とあきらは視線を交し合い肩を竦めた。
類はソファーに座って柔らかく微笑んでいる。
殴りかかってきた道明寺を軽くあしらって、は類の隣に座りコテンと体を預けた。
甘える仕草に類の保護欲は十分そそられの頭をよしよしと撫でる。

「しっかし女の子に赤札張ったとはなー。その女の子が気弱な子だったら大変だったぞ?」
更に体を動かしたは類の膝の上に頭を置いて、猫のようにゴロゴロする。やはり撫でる類。
英徳の生徒が見れば失神しそうな光景だった。

道明寺は不愉快そうに顔を顰めてを睨んだ。
「どう大変なんだよ」
が満面の笑みを返すが、それはいつもとは全く違うドス黒い笑みだった。
その笑みの前では無条件で生まれてきた事すら後悔しそうな。

「お前のこの家が大爆発で吹っ飛んでた。ドッカーン!」
「・・・・・・・」
ケタケタケタ!と笑うを前に、道明寺も笑おうとしたができなかった。
ただ不自然に片頬が引き攣っただけで冷たい汗が流れる。
冗談ではすまないのだという事を道明寺は過去に嫌というほど思い知らされていた。

実はが転入してきた時、道明寺とは反発しあった。
(というか道明寺が一方的に絡んでた感もある)
そしてそのままの流れでのクツ箱には赤札が張られたのだが。

「凄かったよな、けしかけた男子生徒全員ボコボコ三ヶ月病院通い」
地獄を思い出すかのように呟くあきら。

「女の子はの顔見るだけで逃げ出すようになるし」
の頭を撫で続けながら囁く声音で言う類。

「しかも俺らの迎えの車が三日連続スクラップにされたしね」
信じられないという風に深く息を吐いて零す西門。

はやっぱり笑ったまま口を開いた。
「えーそれは俺じゃねえしー」
「いやお前だろ」
あきらの突っ込みにニヤリと不敵な笑みになる。
「証拠あんの?」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

指紋も目撃証言も物証も確かに無かったが、の笑顔が真実を物語っていた。
乗っていた運転手は何も話さず仕事を自ら辞めていったという・・・。
結局道明寺以外の三人が身の危険を素早く察知し、意固地になっていた道明寺を説得して赤札撤回になったわけだが。
圧倒的な金と権力があろうとも手を出してはならない人物というのは居て、はまさにそういう人種だった。

過去を思い出し身震いする一同を笑って眺め、

「人生日々学習だね」

と他人事のように言った。




「いやーしかしアレだ、道明寺。お前に似合いなんじゃないか、そのお姫様」
類、西門、あきらが帰った後もは道明寺の部屋でくつろいでいた。
なんだかんだ言って今やを心底気に入っている道明寺はそれについて何も言わない。
「冗談じゃねえ」
「あっはっは」
「何だテメエ」
「まー俺もハニーと出会った頃はそうだったからなー」
「ハニーって、・・・ああ、テメエの」
「恋人」

道明寺は未だ見たこともないの恋人を想像で思い浮かべた。
どんな奴かは知らないが幸せだろうなと漠然と思う。に愛されるなら。

道明寺は愛されるという実感を知らないので想像するしかできなかったが、
想像の中でもやはり結構幸せそうだった。

「ま、何か困った事があったらこの愛の伝道師に相談するがよい」
「絶対しねーから安心しろ」
「素直じゃないんだからーそこもちょうキャワユイ!」
「だから抱きつくんじゃねえ!!」


ただ想像の中のの恋人よりもずっと、現実にこうしてとじゃれ合う自分のほうが幸せで。
加えて大きな実感もあったので、道明寺は笑っての頭をぐしゃぐしゃに撫でた。


後に恥を忍んで恋の相談を持ちかけ散々からかわれるなんて知る由もなく、それはもう楽しそうに。













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のハニーは刑事コロンボで言うところ「うちのカミさん」のポジション。