An unskilled dance is danced.
そして僕達は今日も手と手を取って踊るんだ。
呼吸を乱し時に互いの足先を踏んだりして、不器用で下手くそで。
それでも愛だけはたっぷりと込めて。
珪は苦い野菜が嫌いだ。
カイワレとかがそれである。
勿論(秘密の)恋人であるは承知の上で、そのお弁当を差し出した。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
頭上は晴天、雲ひとつない青が近いこの屋上で二人は見詰め合う。
先に降参して口を開いたのはいつもの通り珪だった。
「わざとか・・・?」
「おうっ!わざとだ☆」
項垂れる珪の金色に近い髪が風に揺れて陽の光に煌く。
はその光景を見るたびにいつも幸せな気持ちになる。えへへーと笑った。
本当に肝心な事は言わない男なので珪も知らない事実。
それはが愛するより愛されることが似合う男だが、現実は違うということ。
好きな人の髪の毛一本にだって命を懸けられるのがという人物で、
愛されるより愛することを本望とする。
は近くのコンビニで買ってきたその弁当を見て、それから珪の顔を見て、笑った。
「ピーマンも嫌いなのか?お子チャマめえー」
「・・・苦手なだけだ。食べれないわけじゃない」
「ピーマン苦いか?」
「・・・・にがい」
頷く珪。
うんうん、と至極納得した様子のは、珪に渡した弁当からピーマンだけを次々と摘まんで食べてしまった。
もぐもぐもぐ、と咀嚼をして飲み込んで「んまい」と呟いた。
苦々しい顔の珪はきっと過去に食べたピーマンの味を思い出しているのだろう。
「ピーマンってなー子供の舌だと苦味を強く感じるんだってさ。味蕾?とかそんなん」
「・・・何だ、それ」
「いやよくは知らねーけど、味蕾ってのが味を感知する機能で。
子供は大人よかそれが多くて、だから苦味とかにも過敏に反応するんだってさ」
「だから・・・?」
「お前は子供だね、ってはなし」
珪はムッとして、に向かって手を伸ばした。
鼻を摘まんで引っ張ると素直にそれに引かれて顔が近付く。
鼻と鼻が触れ合うまでもう少し。
「・・・・検証。」
自分が本当に子供の舌であるとするなら、
苦さだけではなくあらゆる味に敏感だというわけで。
たとえば、やわらかい果物のような唇が触れれば。
「ん」
ああなるほど、眩暈がしそうなほど甘く感じるわけだ。
珪はうっとりとした意識の中で、そう、思った。
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「怒ってんのか?」
「・・・・・・・・・別に、怒ってない」
「怒ってるな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
先月は文化祭があったせいで忙しくデートできなかった二人は、
今日やっとお互いの都合がついて山へ紅葉狩りへ行くというのに。
バス停の前に並んで立つ二人には甘い会話の一つも無い。
珍しく一方的に珪が不機嫌なのである。
「だーから、ちゃんと断ったんだって」
「ならなんであんな楽しそうに喋る必要があるんだ」
話は少しだけ時間を遡る。
事の発端は待ち合わせ時間より少しだけ早く到着したに二人の女の子が声をかけてきたことだった。
つまり逆ナンというやつで、勿論は即座に断ったが女の子もめげなかった。
「だったら待ち合わせの相手が来るまでお話しませんか?」と言われ、はここで少し考えた。
彼は本来真性フェミニストなので女性の好意の申し出を大概は聞き入れてしまったりする。
そして女の子二人に囲まれて会話を弾ませるの姿を見た珪のご機嫌が、まあ、この通りズドーンと降下したわけで。
二人は真っ直ぐ前を向いたまま目も合わさずにいる。
は「あー」と小さく漏らして頭を掻いた。
自分の愛には絶対の自信があるが、と内心自嘲する。
「どうしたら許してくれる?」
のその言葉を聞いた珪はやはり視線は動かさず、けれど唇を微かに開いて。
「・・・今日は、できるだけ長く一緒に居ろよ」
ゆっくりと動いたの瞳に映ったのは少しだけ紅くなった珪の横顔。
バスはまだ来ないけれどそれでもいいか、なんて思ってみたり。