「先輩ーーーーーーー!!」
どどーん!!
「ブフォアーーー!!」
ガハガハゴガハガハ!!
昼休み、食後のお茶を飲んでいた僕は。
「ああ、大丈夫!?先輩!!」
一つ年下の火原に突撃され。
「・・・ッ大丈夫に見えるんなら、眼科にっ・・・行け!!」
喉を逆流したお茶が鼻に到達し激痛に見舞われ噎せながら怒鳴った。
えんたーてなー。
「で、何の用なの」
「だからー今度のコンクールで演奏する曲を聴いてもらいにきたの!」
わあ嬉しい。
なんて思うはずもなく、僕は火原を睨んだ。
「ああそう。だったら王崎の所に行けば。生憎僕はそういう方面では無知なんだ。
そもそも大学まで来る必要あるのかい?いや無いね。というわけで、帰ってくれ」
火原は僕の目をじっと覗きこんで頬を膨らませる。
持参したトランペットをケースに入れたまま軽く振った。
「だって先輩、高校に来てくんないじゃん!」
「用が無いから」
火原の頬はハムスター並に膨らんだ。
小動物は嫌いじゃないけど。
なんか、お前は可愛くないんだ。
「鬱陶しい」
「・・・・・ごめんなさい」
普段明るいくせに、五月蝿いくらい騒がしいくせに。
こういう素直さは卑怯だろう。
「で」
「・・・・え?」
「何を聴かせるんだ。僕に」
ほらね、今度は瞬間に満面の笑顔だよ。
ああ、そうか。だから苦手なんだ。関わりたくないと無意識に思うんだ。
「へっへっへー。エンターテナー!先輩、スティング好きなんでしょ?」
「そんな理由でコンクールの演奏曲を決めたの?」
「大事な理由だよ、オレには」
「・・・・」
真っ直ぐな言葉には、慣れていない。どういう反応を返せば正解なのか戸惑ってしまう。
「も・・・いい。分かった。・・・・吹けば。」
「うん!!」
僕より全然大きな体で子供みたいにはしゃいじゃってさ。恥ずかしくないわけ?
・・・そう言ってやろうかと思ったけど。
結局下心無く、単に僕を喜ばせたいが為に走ってきて。
今目の前で楽しそうにトランペットを吹いていて。
しかもその曲が、何気なく話した僕のお気に入りの映画の曲で。
「えへへ!どう?結構練習したんだ〜」
「・・・まあまあじゃない?」
なんだか完全に毒気を抜かれた。馬鹿馬鹿しくなった。
嫌いじゃないんだ。
・・・・苦手だけどね。
「え?どういう思いで演奏したかって?そりゃ先輩を想って吹いたに決まってんじゃん」
コンクール後の新聞部のインタビューでこう答えた火原を見かけた時はさすがに
今後の僕の人生から抹殺してやろうかと本気で思い悩んだけどさ。
「先輩〜何で怒ってんの?」
「偶にはその軽い脳ミソ使って自分で考えてみたら?」