「嫌だよ!風紀委員に加えて美化委員にまで関わったらまともな学校生活送れない!!」
「マフィアのボスになる男が何言ってんだ」
なるとは言ってないだろ!?とツナが叫ぶ。
黒スーツに身を包んだ赤ん坊のリボーンは、懐から取り出したべレッタM92Sをツナの額に押し付けた。
ACT2 ツナの非日常な一日
「いいかツナ、なりたいかなりたくないかは問題じゃねえんだ。
オレの仕事はツナをボンゴレファミリーの10代目として育てる事。
・・・知った顔をファミリーに加えるのはオレの優しさだと思え」
実際マフィアってのはそう生易しいモンじゃねえんだ、と言うリボーンにツナは表情を暗くした。
そんなの一度だって頼んでないじゃないか、と思う。
マフィアのボスになりたいだなんて思ったことも無ければ、
友達を巻き込みたいと思ったことも無い。
「・・・絶対に、嫌だからな・・・!!」
「デカイ態度に出るようになったな、ツナ」
リボーンを睨むツナを相手に、リボーンの声にもほんの僅かな怒気が孕まれる。
緊張したように二人を見詰めていた獄寺はわざと表情を明るくして声を上げた。
「じゅ、10代目!オレが話つけてきます!なーに、2、3発脅せば・・・」
しかし獄寺の台詞は深く空気を読まないその性格故に
ただツナを余計に怒らせるものでしかなかった。
ツナはギッと獄寺を睨む。
が、獄寺の褒められるのを期待した姿は大型犬が千切れんばかりに尻尾を振っている感じで。
犬好きのツナは少し躊躇って、そして大きく息を吸い込み。
「余計な事しないでよ、ダイナマイト馬鹿!!」
なんとかそう怒鳴る事だけは果たし、物凄い勢いで走り去った。
「だ、だいなまいとばか・・・・」
残された獄寺は呆然と立ち尽くしツナの去った方向を見詰めていた。
ツナの背中が見えなくなった途端ガクリと項垂れる。
「・・・オレ、余計な事言ったんでしょうか・・・リボーンさん」
心底落ち込んだ獄寺の哀れな声音にリボーンは。
「言ったぞ」
容赦なく答えてその後頭部をド突いた。
「・・・なんなんだよ、リボーンも、獄寺君も・・・!」
校舎の最上階で足を止めて、肩で息をしながらツナは吐き捨てた。
足を止めた事でどっと脳に血液が巡る。
お世辞にも人の上に立つ素質など持ち合わせていない自分が、何故こんな目に遭うのか。
ツナは考えながら冷たい廊下に腰を下ろした。
日和見的で、根性とかいったものとも無縁で。強くも無いし頭が良いわけでもない。
例えばあの獄寺君でさえ、自分よりはずっとボスに相応しいだろう。
それに、とツナは思った。
それに、自分は。
「人殺しにはなりたくない・・・よ」
ツナが以前獄寺にそう言った時は、
「10代目のお手を煩わせる事はないです!自分がやります!」
と、獄寺は張り切って拳を作って言った。彼なりに親愛と忠義を口にしたのだが。
しかしツナはそういうのは違うと思っただけだった。
獄寺君にさせても、結局自分は人殺しになる。そんなのは嫌だ。
情けなくてもダメツナでも、人の顔を真っ直ぐ見れなくなるよりはずっといい。
「京子ちゃんにも、会えなくなるし」
ツナは呟いてポッと頬を赤らめた。
そして周囲を見回し誰にも聞かれていないことを確認して胸を撫で下ろす。
しかしその瞬間。
「せやなあ、好きな子おるんなら人殺しは止めといた方がエエなぁ」
いやにのんびりとした声がツナの耳に降り落ちた。
「・・・・・・・っ!!」
ツナは情けなく廊下に座り込んだまま、息を止めた。
声の主は目の前の部屋の扉を開けて立っている。面白い見世物を眺めるように。
それは、先程のリボーン達との口論の原因になった人物、美化委員のだった。
どうしてここに、と呟く前にツナは答えを見つけた。
「こ、ここ・・・美化委員の」
「委員室。やけど?何か用?沢田ツナ」
目の前の人物の口から出た自分の名前に、ツナはギョッとしてやっと立ち上がった。
軽い貧血を起こしたのか一歩だけ後ろに下がり、踏みとどまる。
「どうして、オレの名前」
不安そうに尋ねるツナに、は目を見開く。
それからゆっくりと可笑しそうに笑った。
その表情は、ツナが聞いた美化委員の噂では考えられないほどに柔らかで優しい。
「自覚無いんか?校内壊すんは風紀委員かお前か、お前のお友達のどいつかや。」
「・・・っ、す、すいません!!」
「後片付けちゃんとしてやー。しんどいわ、ホンマ」
「は、はい!」
エエ子やね。と。
ツナの頭にの掌が乗った。
くしゃりと一度だけ髪を掻き混ぜられ離れてゆく。
「用無いんやったら、もう行き。
美化委員に関わるんは風紀委員敵に回すいう意味や。雲雀は怖いでー」
知ってる、とツナは小さく笑った。
つい最近リボーンに嵌められて雲雀に殴られたばかりで。
「で、でも、前々から思ってたんですけど、校内備品の管理とかって美化委員の仕事じゃないような・・・」
なんとなくもう少しだけと話がしていたくてツナが口にした疑問に、は面倒臭そうに頭をかいた。
寝惚けた顔と皺だらけの制服と寝癖。
今まで寝てたのかな、とツナは思う。
不潔感は無く、どこか可愛いと思えてしまうのは不思議だった。
「・・・あー・・・最初は普通に花壇の手入れとか、そんなんしとったんやけど」
「花壇の!?」
「校門近くの花壇とか自信作やったんやで」
校門近くの花壇、といえば。
春の桜のその後に存在を見せ付けていた綺麗な雪柳。
今は何故かサボテンが並べられているが。
「風紀委員が暴れて潰しよったんよ。
さすがに腹立って仕置きしたら、生徒会に校内美化及び保持も仕事やって言われてなぁ」
ああ、つまり風紀委員に対抗できるならと押し付けられたのか。
ツナは無言で納得した。
「・・・綺麗でした。雪柳」
「ふふん、せやろ?」
「何しろそれはもう珍しいほどのご執心で育ててましたからね、このヒトは」
最後に付け加えられた言葉にはあからさまに眉を顰めて背後を振り返った。
その肩越しにツナも視線を送ると、そこには。
「なんや、文句あるんか彗」
憮然としたの声を彗は鼻で笑った。
と違いキッチリと着こなした制服と整えられた黒髪が、精悍で。
ツナは「格好良いなあ」と素直に思っていた。
「そう思うからには何か心当たりがあるんじゃないですか?」
「・・・この性格ブス・・・」
「それは俺の台詞です」
バチバチバチバチ!!
睨み合う二人を前に、自分の居場所は無くなったと気づいたツナは
本気で繰り広げられる子供みたいな言い合いを背中に受けながらその場を後にした。