応接室のドアを豪快に開き
雲雀の目の前に現れたのは。


「なんやー広いやん。半分くらい譲渡して当然や」

「アンタちゃんと許可取ったんですか」


眼鏡をかけて眠そうな顔をした男と
短髪長身の男、二人組み。



「・・・群れた草食動物が、何か用?」


雲雀は不愉快そうに眉を動かして立ち上がった。











Kitten's sharp fang












「・・・なんや彗。笑い堪えるんは身体に悪いで」

は背後で腹を抱えて蹲る彗を睨んで言い放つ。
顔を上げた彗の目元には薄っすらと涙が浮かんでいた。


「・・・く、くくく!アンタが、草食動物だって・・・!?はははははは!」

「お前、俺は子猫のように愛くるしいやろが」


雲雀は指をピキリと鳴らしながら二人を眺めた。


「漫才なら他所でやってくれない?・・・まあ、無傷では帰さないけど」

言うやいなや右腕を振るう。
仕込みトンファーが空気を切る音がする。

それがの左頬にめり込む前に。


「無礼者。」

彗は冷たく言い放ち雲雀を見下ろした。
その背中に守られるように立っているは嬉々とした表情で部屋の品定めをしている。


彗の大きな掌がトンファーを掴み止めていた。
力を入れてもビクともしない彗の腕に、雲雀は目を見開いた。

動きを見極められたのも初めてなら
押さえ込まれたのも初めてだ。


はヘラリと笑いながらソファーに身を沈めた。
その後ろに従者のように立つ彗。



「そうカッカせんでエエ。交渉しに来ただけや」

「交渉?」

「せや、応接室を半分明け渡せ」


アンタの口調じゃ乗っ取りだろ。
彗は痛む頭を押さえて唸った。


「・・・君達、何者?」

向かいに座りながら雲雀は訊いた。




「何者でもあらへんよ。ただの美化委員会や」



足を組みなおし、尊大な態度では告げた。
そして声は続く。



「せ・や・け・どー。
 忘れたらアカンのは子猫も肉食っちゅう事実や。
 ついでに牙も爪もあるで?」



の眼を真正面から見た雲雀は
その眼が孕んだ光の鮮烈さに顔を顰めた。



「交渉なら、相応の利益を提示して欲しいね」

雲雀はそう言った後微笑む。


雲雀の中に恐怖や困惑は無かったが、代わりに久々の興奮を覚えていた。
なんと言うか名前すらもおぼろげな懐かしい感情。

これは。


ワクワク、だ。


「利益、利益ね。せやなー肩でも揉んだろか?」


ワキワキと両手を動かす
彗はまた更に頭痛を感じ、“それ絶対俺がやらされるんだ”と落ち込む。

何で俺はこの人についてきたんだろう、とまで思った。


「諦めや、彗。選んだんはお前や」


の言葉に彗ははっと顔を上げる。
すると顔だけ振り返ったがニッコリと笑った。







ああまったく。



これから面白くなりそうだ。



まるで喜劇のような二人を眺めて
雲雀は心底そう予感して、柔らかく微笑んだ。