海棠








「・・・・ヒトの顔見てあからさまに嫌な顔せんでもええやん、ごっきゅん」
「ごっきゅん言うな気色悪い。嫌なんだから当然だろうが」
「よう言うわ」

好きなくせに。


の余計な一言で、またも校内にドカンと爆音が響き渡る。





「もー。ここ最近毎日掃除させられる」

「す、スミマセン!10代目!!」

獄寺は雑巾片手に土下座をした。ツナは「いいから、早く片付けよう」と慣れた対応。
ああでもそれでも毎日手伝って下さる10代目!
なんとお優しい!と獄寺は拳を作って見当違いなことを考えていた。

そして思い出すのは忌々しい寝惚け面。メガネ。美化委員。
何もかも全部はテメエのせいだ!!と、闘志を燃やしながらバケツで洗った雑巾を絞った。

「どうせ敵わないんだから諦めればいいのに。」
今日もさんは無傷で悠々と下校していたし、とツナが溜め息を吐くと
獄寺は真っ青になってツナの足に縋りついた。

「つつつつつつつつ次は勝ちます!!ぶっ飛ばします!!
 冗談じゃないです、あんな奴余裕ですよ!!10代目の右腕の名を汚す真似はしません!」

「ちょ、ちょっと獄寺君・・・!!」


獄寺に両足を押さえられバランスを崩したツナの体が、後方に揺れた。
手に持った箒を放せば幾分違っていたのに、人間とは咄嗟の時には不可解な行動を起こすもので。
ツナは両手で箒を握り締めて無防備に倒れる。

「10代目!」

頭を打ってしまう、と、獄寺が手を伸ばしたが。
それが届くより先に。


ふわりと。


ツナの体が抱き留められた。
柔らかい匂いと共にツナの背中に体温が広がる。
そしてツナの目の前の獄寺の顔が、徐々に恐ろしいものへと変貌を遂げていった。


「何してんねん、ジブンら」

、さん」

「メガネ・・・!!」

獄寺は心底嫌そうな顔をして。
ツナは嬉しそうな、安心したような顔をして。
だからさらに獄寺は不機嫌になる。

10代目のお体に気安く触ってんじゃねえ!!と思いながら
頭のどこかで、じゃあ例えば10代目じゃなく山本のヤローだったりしたらと考えて、やっぱり気分が悪いと思った。
それってどういう事だ、と突き詰める暇は無く思考は停止。

獄寺はの手からツナを奪うように引き離し、睨んだ。


「さ、触ってんじゃねえ!!」

10代目に!いや、誰にも!いや、俺以外には!!
そこまで衝動的に脳内で考えて、獄寺は背筋に寒いものを感じた。
自分は一体何を考えている?


「ありがとう、さん」
ツナはいつも通り切羽詰っている獄寺を無視してそうに告げた。
ええんよ、と片手を挙げて緩く返したは、ツナは確かに人の上に立つ才があると思い笑う。
本当にツナがそれを望むようになるなら、助力しても良いとさえ思うほどに。


獄寺は獄寺で、優しくツナに向かって微笑むに無条件で腹を立てていた。
色目使いやがって!!と鋭くを睨みつける。
しかしはフフンと鼻で笑った。


「そないに俺が好きなんか?」

「・・・・・!!」

ああもう、この人達は。
ツナが頭を抱えるのとほぼ同時に。


またも爆音は鳴り響く。